筑波山〜霞ヶ浦コース
「早く走り出せ!」とせがむホンダマルチのメカニカルノイズに、
黒く施されたテールパイプからの『カラカラ』と渇いた声に心も弾んで来る。
この声を聞いたら何時までも待たせてはおけない。
さぁ出発だ。
今日は筑波山から霞ケ浦へ向けて進路を取ろう。
しかし、まだ朝の8時だと言うのにこの暑さはなんだ。
このまま気温が上がるとしんどいツーリングになるだろうから、
早めの休憩を心掛けよう
国道4号バイパスを経て菱沼を左折し、30分ほど県道結城−野田線を行く。
順調だ。心地良い田舎道だが赤いシグナルで余儀なく停車を強いられるたびに、
真夏の焼けるような日差しとエンジンからの放熱が二人を襲う。
「暑い!」示し合わせた訳では無いが、
その単語が口を揃える様に出たのには苦笑した。
僕等は貝谷を右折して結城−野田線に別れを告げ、筑波方面へ裏道を走る。
此処を行くのは地元の車か農業用の車輌位で、交通量は皆無に近い。
広大な関東平野の真ん中ゆえ、野を越え谷を越えとは行かないが、
その分シフトチェンジをサボっても、井荻は気付かぬふりをして走る。
このまま筑波付近まで走っても良いが、途中で120号線に入る予定だ、
下妻まで行くと120号線も広くなって、渋滞知らずで筑波山の麓まで走れる。
もちろんタンデムツーリングで無理は厳禁だ!
ただでさえこの焼けるような暑さで、体は大量の発汗を促している。
そしてシグナルで停車すると走行時の涼感は一瞬にして奪われ、
倍の汗が噴き出て来る様に思われた。
『停車する度に流れ出た汗が走行中に乾く』事を繰り返し、
熱中症の心配と必要以上に消耗した体力を補う為にも、
早めの水分補給を忘れる訳にはいかない。
鬼怒川を越えると『砂沼サンビーチ』の看板が目に入った。
広大な関東平野の真ん中にビーチ?
その名前に疑問と興味をそそられ、左ウィンカーをあげる。
が、行った先は市民プールで、おばちゃんが畑の即席駐車場に引き入れようと、
大きな旗を振っていた。
自分では「沼辺の公園でコーラでも」と空想していたので、
そのギャップがたまらなく可笑しい。
あと30分も走れば最初の目的地である筑波山だ。
コンビニで水分補給して、走ってしまえ!
つくば市に入ると、車線は狭くなったが、その分直線が増えた。
先程からアラビア数字で書かれている回転計の針は『3』の前後で安定して
静止している。
そして紳士的でライダーを威嚇する様な事は無いが、
幾分かの振動を伴ったその音は、聞き方では今にも獲物に襲いかからんとする
豹の様に、後ろ足をたたみ姿勢を低く茂みに隠れ、
グゥォロゴォロと喉を鳴す『唸り声』にも似ている。
井荻はかなりの老体だが、メンテナンスの行き届いたそのナナハンのパワーは、
右手が自制心と理性を失った時には、二人を乗せたまま暴れ回る実力を充分に秘めている。
その[力]に引かれマルチばかり操って来た自分の20年を振り返った時、
多かれ少なかれその魅力の前に、それを無くさなかった日が有っただろうか。
参道入口から山頂の筑波神社を目指す。
カーブも緩やかで、タンデムシートの彼女も前回より慣れて来て、
井荻は軽々と山頂へ向け駆け上がる。
神社の境内まで来たが土産物屋が所狭しと並んでいて、
邪魔にならないように駐車するスペースが見当たらない。
仕方なくUターンをして戻ろうかと思案していると、
一軒の土産物屋のおばちゃんが「ここに停めなさい」と場所を提供してくれたので
甘えさせてもらった。
筑波山神社の門前まで来て、神様に挨拶を忘れるといけない。
食事より先に安全を祈願しておこう。
石段を上がると朱の鮮やかな大きな本殿と杉の大木、
そして御門の彫刻に感嘆の声をあげた二人。
なんの御利益があるのか分からないが、道中の安全をねんごろに祈願した。
さすがに喉の乾きも限界だ、自販機で買ったスポーツ飲料で我々は喉を潤した。
山頂までケーブルカーで上がってみると、
山頂には回転する展望台や団体客、学生向けの無料休憩所等の施設もあるのだが、
何年も手入れを怠ったそれはみすぼらしく、時間の流れの無情を感じずにはいられない。
僕等は涼む程度の時間を過ごし、先程の土産物屋さんで大盛蕎麦を食して霞ケ浦へ向かう。
土浦市から霞ケ浦町を抜けるのだが、関東平野の中にもこれほど何気ない丘陵地や、
林が美しいと思う景色がそうあるだろうか。
感動に疲れを忘れ、二人は走り続ける。
いくら補給しても砂漠に撒いた水の様に乾く体、
それでも溢れ出る汗を冷やそうと、
飛び込んだ道の駅『玉造』の喫茶店では、冷たいコーヒーが角張った氷と協調して、
グラスにも汗をかかせていた。
もう夏の日もすっかり夕暮れだ、
水戸街道をボチボチと帰るとしよう。
本日の走行距離272k
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